近代文明と怪異が交錯する奇談集 稗田利明
こんにちは、稗田利明です!
荒俣宏の『文明怪化奇談』は、「帝都物語」以来およそ二十年ぶりとなる怪奇伝奇小説であり、文明開化という激動の時代を背景に、新聞記者たちが体験した怪異を語る連作形式で描かれる。舞台は塚原渋柿園の談話会で、幕末から明治へと移り変わる社会の中、急速な近代化に翻弄された人々の視点から奇談が紡がれていく。
冒頭の「函館氷」「橘氏の火葬炉」は、箱館戦争や大逆事件といった史実を背景に持ちながらも、怪異としては比較的穏やかで、伝統的怪談の趣を感じさせる。しかし「カーマンセラ嬢」では、博覧会の見世物と電気技術が結びつき、レントゲンと被曝という近代的恐怖が提示され、怪談は一気に近代的様相を帯びていく。
続く「眼球の写真」では、日比谷焼討事件の夜に現れる光球という印象的な導入から、国家規模の怪異へと物語が展開する。光によって網膜に焼きついた平将門の像が消えず、どこを見てもその姿が現れるという設定は、視覚そのものが侵食される恐怖を描き出し、単なる怪談を超えた不気味さを生み出している。
本書の核心は、急速に進む西欧化・機械化が庶民にもたらした影響への問いにある。変化に適応できなかった人々にとって、近代そのものが理解不能な「怪異」であり、抗う術のない存在として立ちはだかる。その象徴が「二笑亭の電話」であり、電気や通信といった文明の利器が狂気と結びつき、関東大震災の記憶と重なりながら、脆く崩れる近代文明の姿が描かれる。
本作は、怪異を単なる幻想としてではなく、近代化の歪みや人間の無力さを映し出す装置として機能させた点において、近代伝奇小説の到達点とも言える作品である。
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